特集:ポジティブ・マテリアリズムとヨーロッパのものづくりのこれから

2026年3月、Helsingin Sanomat は研究者や起業家たちを招き、この先5年がどうなるかをともに展望しました。その一人として参加した創業者 Janne Kasperi Suhonen は、これからのものづくりが向かうべき方向について考えを述べています。答えは、量を減らし、価値を高めること。フィンランドのような小さな国が競うべきなのは数量ではなく、品質です。フィンランド、そしてヨーロッパの製造業の未来は、より多く作ることではなく、より良く作ることにあります。

質の高いものづくりを支える土台

長いあいだ、産業の成功は生産量で測られてきました。しかしフィンランドのような小規模経済にとって、生産量の規模は国際競争で優位に立つための武器にはなりません。競争力の源になるのは、職人技、品質、そして素材と製造に対する誠実さです。高品質な生産体制を築くには時間がかかりますが、そのぶん揺らぎにくくなります。利益を規模ではなく確かな良さから生み出せれば、事業の安定性も高まります。

小さな国は価格競争では勝てません。生産量という点で見れば、ヨーロッパはすでに何十年も遅れています。それでもヨーロッパが昔から強みとしてきたのは、世代を超えて受け継がれ、業界を代表する品質で知られるものづくりの基盤を築いてきたことです。

垂直統合で、製品の価値と品質を高める

大量生産は、大量流通の仕組みに支えられています。原材料から使い手に届くまでのあいだに多くの仲介が入るほど、製品の価値も品質も削られていきます。場合によっては、素材から最終製品が顧客の手に渡るまでに、5社から6社もの中間業者が関わることもあります。それぞれが20〜70%のマージンを取れば、肝心のものづくりに使える余地はほとんど残りません。

だからこそ、製品の価値を高め、品質を引き上げるためには、私たち自身が価値を生み出す工程を垂直に統合し、その流れを自ら担う必要があります。つまり、製造も販売も自分たちで手がけるということです。

私たちは、自分たちの価値連鎖全体を理解している会社にこそ、これからの強さがあると考えています。私たちの工房もその一つです。価値の流れを自ら持つことで、技能は地域の中で積み重なり、言葉になりにくい知恵が育ちます。そして学びがすぐに現場へ戻る、密なフィードバックの循環が生まれます。

消費主義から、前向きなマテリアリズムへ

HS の記事の中で、Janne はこう述べています。「消費主義が、買って、飽きて、買い替えることを前提にしているのに対し、前向きなマテリアリズムは、ものとの関係性を土台にしています」。私たちが望む変化の本質は、まさにここにあります。

ものはいつの時代も文化を形づくってきました。使い捨てのものは、無関心さや過剰さを当たり前にしてしまいます。いたずらに誇張されたものは、優越感をあおりやすい。一方で、丈夫で修理しながら使える製品は、身の回りのものや人を大切にする姿勢、受け継ぐ意識、そして敬意のある文化を映し出します。

耐久性が示すのは、所有そのものの価値ではありません。一つのものを手入れしながら使い続ける姿勢であり、修理する文化であり、記憶を残していくことの大切さです。丁寧につくられたものは、実用的な道具であるだけでなく、よく生きるとは何か、よりよい社会とは何かを、自分自身や周囲に静かに示してくれる存在にもなります。

これからの継承

継承という言葉は、つい過去から受け継がれてきたものとして語られがちです。そこに励まされたり、誇りを感じたりすることもあるでしょう。けれど本来、継承とは自分たちが去ったあとに何を残すかということです。次の世代に、どんな世界を手渡したいのか。 

Kasperiが大切にしているのは、この場所に少しでも良いものを築き、残していくことです。私たちは、日々しっかり使われ、時とともに表情を深め、やがて受け継がれていく製品をつくっています。使い込まれた革に刻まれる痕跡や風合いは、持ち主の物語を宿し、その人の継承の一部になっていきます。ハメーンリンナの工房では、フィンランドに確かな品質のものづくりの文化を根づかせ、それを自分たちの継承として残したいと考えています。ハメーンリンナのレザークラフト学校は、次の世代のつくり手を育てる場でもあります。彼らは私たちとともに働き、この新しくも古い仕事の、これからの継承を形にしていきます。

私たちがここで取り組んでいるのは、これからのヨーロッパのクラフトビジネスのひな型をつくることです。成長が、基準を下げることを意味しないこと。ものが長く使われる前提で設計され、つくられること。そうした新しい世代の企業が、もうひとつの道筋を示していく。より誠実な未来へ向かうための道です。